カテゴリー別アーカイブ: 都市計画

世界の活力ある都市ランキング

建築の専門誌Architecture Daily(2022年7月4日)の記事で、都市の安定性、インフラストラクチャーの整備状況、健康福祉、文科系術の成熟度等の観点から評価すると、1位はオーストリアのヴィエナ、2位デンマークのコペンハーゲン、3位、スイスのチューリッヒとカナダのカルガリー、5位はカナダのヴァンクーバー、6位スイスのジュネーブ、7位ドイツのフランクフルト、8位、カナダのトロント、9位オランダのアムステルダム、10位大阪市、メルボルン(オーストラリア)で同率。日本の研究組織も調査研究提案をしていますがどのような観点で評価委するかでその結果は異なります。

アメリカで活力ある都市

ニューヨークタイムズ2024年1月18日の記事によると、新しい産業の時代、いかに都市は繁栄するかと言う内容です。特にフェニックスし、オハイオ州州都コロンバス市、ニューヨーク州のシラキューズ市がセミコンダクターの製造工場など新産業を誘致し、元気があります。また、研究産業で、サンディエゴ(カリフォルニア州)、セントルイス(ミズーリ―州)、オハイオ州のデイトン市などが元気があります。1960年代までオハイオ州は製造業の拠点で特にクリーブランド市は繁栄していましたが、その後衰退しました。オハイオ州のコロンバス市、デイトン市が繁栄しています。新たな産業の拠点州に発展することを期待しています。

世界各国の熱対策官会議

CityLab22年10月3日の記事によりますと、世界の主要都市の熱対策官が市民活動家を連れてワシントンDCに集まり気候変動の議論をしました。参加者すべてが女性です。熱の問題は、気づかないうちに、静かに進行することです。この会議はアトランティック委員会のアドリアンヌ・アーシュト‐ロックフェラー財団レジーリエンス・センターが組織しました。主要都市では熱による経済損失が大きいです。熱対策官(チーフ・ヒート・オフィッサー)の役割はまだ緒に就いたばかりです。

参加者全員の認識として、このままだと、2050年までに1000の都市が夏の平均気温が35度になると認識しました。また、植樹により都市の温度を下げるという自然の法則を使っての温度低下をさせる提案がありました。

1994年だったか、早稲田大学建築学科尾島研究室がキャンパス周辺の街路で、街路樹がある所とない所での地表面温度を測定した調査研究が建築学会関東支部で報告されました。緑という自然の力で大地の温度を低くする方法は最も原始的ですが、最も有効な都市を冷やす方法です。都内と見渡すと、道路(幅員4メートル以上)がなく、建築基準法違反の住宅が建て込んでいる街区は熱環境的にも問題が多く、一方、再開発し、緑地を十分に確保した街区は熱環境の観点からも良好な街区と言えます。

ニューヨーク市オープンストリート事業。車を止め路上レストランで商業活性化

ニューヨークタイムズ22年10月25日の記事によりますと、室外(道路)の飲食を推進することで、パンデミックで打撃を受けた飲食業が活性化しています。ニューヨーク市の調査によりますと、オープンストリート事業は大変成功し、飲食業が再び活性化しています。コロナ禍で大打撃を受けた飲食業ですが、オープンストリート事業で新たな商業活動が生まれました。ニューヨーク市役所の運輸委員会の委員長がコメントをしました。

委員長のポストは日本の自治体では教育員会などありますが、欧米の自治体では各部(局)に大きな方針を決める委員会が存在しています。

オープンストリート事業の飲食業が納める税金もかなりになります。調査によりますと2021年の5地区の事例では、6月1日から8月31日まで平均の税収が600万ドル(1ドル100円とすると6億円)で、過去の3年間の平均税収は5万ドルだったので19%の増収となりました。また、近隣地区でオープンストリート事業をしない街区の飲食業の税収は3.6億ドルでした。

前運輸委員会委員長ジャネット・サディク・カーン女史は街路の使い方のデザインでの生活が地域社会に富をもたらしたと語りました。

日本では道路上での飲食業は、祭礼やイベントの時以外は、固く禁じられています。しかし、街の経済の活性化、パンデミック対策、市民のための道路、街の賑わいの観点などから一度実験したらよいと思います。

ニューヨーク市の車が進入しない道路で商店街の活性化

ニューヨークタイムズの22年10月25日の記事によりますと、ニューヨーク市で、「Open Streets Program」(直訳で開放道路事業)でパンデミックで衰退した商業者が道路上(屋外空間なので感染しにくい)で、車をシャットアウトし、飲食できるようにし、何とか生き延びているとのことです。ニューヨーク市運輸委員会委員長ロドリゲス氏がコメントを発表しました。また、商業活動により市の税収増効果もあります。事例調査をした5地区では、2021年6月から8月までの間の税収は、以前500万ドル(1ドル100円とすると5億円)だった額が、600万ドル(1ドル100として)6億円に増えました。一方で、車をシャットアウトしなかった地区の商店街では税収が3.6億ドルに減少したとのことです。

欧米では、歩道上にレストランのテーブルとイスがせり出し営業をしている事例を多く見かけます。コロナ禍で衰退した経済を立て直すために、また、街の賑わいをもっと盛り上げるため、街に活気を取り戻すため、新たな取り組みに挑戦してみる価値があります。そのため、道路の設計、歩道の設計、商店街全体のあり方など、抜本的な見直しも必要です。

パリオリンピック施設マスタープラン担当者ドミニク・ペロー

2024年パリのオリンピックを控え、競技施設の整備がかなり進んでいると思います。施設計画のマスタープランの担当はフランス人建築家ドミニク・ペローです。施設を見学できればと念じております。日本の場合、大型施設の設計は、大学教授の肩書を持つ建築家化建築家が数百人いる大手設計事務所が担当します。日本はそうした権威付けが必要です。

欧米では一匹狼の建築家が国歌プロジェクトを担当します。ドイツのミュンヘンオリンピックのメイン競技場はフライ・オットー親子が担当しました。オットー氏から直接聞いた話「息子と2人で設計活動をしている。」能力に無関係に設計事務所規模や売上高を参考に発注を決める日本社会では、小規模零細規模の設計事務所は排除されます。フィンランドの大統領官邸は、一匹狼建築家のレイマ・ピエティレが担当しました。私は学生時代、ピエティレ氏を訪問、インタビューをしました。(1972年の早稲田建築に寄稿)98年ワールドカップがパリで開催されました。メインスタジアムの設計を担当したのが一匹狼建築家のマッカレー。当時、マッカレー氏の案内で現地視察しました。

1994年パリを訪問した際、元大統領府チーフ・アーキテクト(日本に同じポストはありませんが、あえて言うなら建設大臣)だったベルモン氏曰く「将来のフランス建築界を背負っていくのはドミニク・ペローと紹介され、ペローの事務所にご案内いただきました。ベルモン氏は1980年代、ミッテラン大統領の下、パリの大改造を推進しました。ルーブル美術館のピラミッド形状のエントランス。バスティーユの新オペラ座。デファンス副都心。セーヌ川にせり出した大蔵省。アラブ世界研究所(設計は電通本社ビルを設計した方)、デファンス副都心など今や観光名所となった建築が立地しています。こうした施設はベルモン氏がプロデュ―スしました。観光名所の建築です。日本政府、東京都庁にこうした公共建築をプロデュースできる最高幹部がいるとよいのですが。パリ・オリンピック施設がどのような姿を現すか楽しみです。

世界で活力ある都市ランキング

Architecture Dailyという建築・都市の専門誌によりますと(22年7月4日)、22年の世界で最も活力ある都市のランキングが発表されました。調査実施組織はEIU(Economic Intelligence Unit)です。評価の視点は、安定性、インフラ整備状況、健康医療、文化芸術分野です。結果は、オーストリアのウィーンが第一位、以下、コペンハーゲン、チューリッヒと続きます。10位は大阪とオーストラリアのメルボルンです。

一方、最下位は、イランのテヘラン、以下、カメルーンのドゥアラ、ジンバブエのハラレ、バングラデッシュのダッカ、パプアニューギニアのポートモレスビー、パキスタンのカラチ、アルジェリアのアルジェ、リビヤのトリポリ、ナイジェリアのラゴス、シリアのダマスカスです。戦乱、災害、社会不安を抱えた都市です。

森記念財団が毎年世界の都市ランキングを発表しています。データ収集、整理、分析にご苦労が多いと思います。しかし、上記の都市ランキングと比較し、森記念財団の調査結果の違いは、東京、ニューヨーク、パリ、ロンドンの大都市の比較が中心で、その他の都市の比較がされていません。どちらが正しいとかでなく、調査の目的、評価の指標、点数付けで評価が異なると言う点です。

Z世代が好む都市

9月1日のニューヨークタイムズの記事です。最近の調査で、18歳から25歳のいわゆるZ世代が好む都市が紹介されました。評価項目は住宅の入手のしやすさ(アフォーダブル住宅)、若い世代の人口比率、失業率、インターネット速度、リクリエーション施設、環境にやさしい通勤手段、公園の数、学校の在籍率等です。1位はアトランタ(ジョージア州)、2位はミネアポリス(ミネソタ州)、3位はボストンです。大都市で見ると最大の都市ニューヨーク市は10位、2位の大都市ロサンジェルス市は20位までに入っていません。3位の大都市シカゴ市は19位、4位のヒューストン市は11位です。あらゆる世代を満足するのは困難ですが、若い世代を増やそうとする目的、戦略な明確であれば、日本でも大いに参考になると思います。

シカゴ市意欲的な環境政策、市所有の公共施設、2025年までに全て再生エネルギーで運用

ブルムバーグ通信22年8月9日、Architecture Daily22年8月号によりますと、「2025年までにシカゴ空港(アメリカでは空港は地元自治体の所有、管理、運営)、図書館、浄水場など市の公共施設は100%再生エネルギーで運用する。」とシカゴ市長ロリ・ライトフット女史(黒人女性、元連邦検事、同性愛者を公言)が発表した。主に太陽光発電による。当初、年間29万t以上の温室効果ガスの削減が期待されます。「2022シカゴ気候アクションプラン」に内容が記載されています。2040年までに温室効果ガスを62%削減すると言う計画です。

ニューヨーク市も2025年までにすべての市有施設を100%再生エネルギーで運用すると計画しています。ローマ市でも建築家ステファノ・ボエリ(緑化建築を設計)が主導し2050年ローマ市のエコロジカル・ヴィジョンを作成しました。

原田のコメント、シカゴ市の意欲的な計画は参考になります。また、ニューヨーク市、ローマ市の計画も刺激的です。温室効果ガス排出が多い日本の大都市でも同様の具体性のあるアクションプランを作成すべきです。温室効果ガスの多くの原因は建築にあります。ローマ市の環境政策は建築家が強く関与しました。日本でも建築家が積極的な役割を果たすべきです。

シンガポールの経済成長、成功の要因に持ち家政策、その背後に優秀な建築家の存在

ブルムバーグ通信22年6月23日によりますと、世界でも経済がトップクラスで、コスモポリタン都市シンガポールの成長、成功の背後に持ち家制度の住宅政策(持ち家比率が世界で最も高い。市民の90%以上が良質なデザインの公共住宅を所有)、そして、その背後に優秀な建築家の存在がありました。住宅開発庁の元建築長リュー・サイ・カー(Liu Thai Ker)です。84歳、イェール大学卒。50万戸以上の公共住宅の開発を監督しました。

大戦後、マレーシアとシンガポールは極めて貧しく、環境も最悪で、シンガポールの川は下水と同じレベルでした。シンガポールはマニラ、ヤンゴン、ホチミン市などよりも遅れていました。カー氏は「大学で勉強し、英語を話せるようになりたい、イェール大学留学後著名な建築家I.M.Peiの下で修業、国家の再建に貢献したい」と思い住宅開発庁に就職しました。1960年代シンガポールの3/4が高密なスラムに住んでいました。氏はアメリカや西欧の都市計画、ニュータウンを見て参考としました。西欧にない「自己完結、自己充実したニュータウン」づくりを目指しました。住宅を建設したのではなく「コミュニティ」を建設、「近隣住区」を作り、その中に1寝室から5寝室の多様な住宅を作りました。ポイントは同じ近隣住区に、1寝室と2寝室を組み合わせ、2寝室と3寝室を組み合わせました。近隣住区の中で経済格差を生ませないようにしました。また、暗い中廊下形式は雰囲気が悪く争いも多いことから中廊下形式を排除しました。

そうした思想の背後に、氏はシンガポールの唯一の財産は「人」であり、人としての基本的なニーズ(衣食住)を満足させることで、住宅があれば仕事に集中でき、また、社会に根を生やし、しいては国家を守り経済建設に貢献すると考えました。シンガポール住宅開発庁は住宅を貸すのでなく売ることです。住宅開発庁の仕事は、住宅の価値を高めることと公共住宅の供給をモニターすることです。国民が多額のお金を使わず需要よりも若干多めの住宅を供給するようにしました。その結果経済成長につながりました。シンガポールがさらに発展するために、第一世代の政治指導者による英才教育により国民の教育レベルが高くなり、また、労働市場の観点から異なる民族に仕事を提供することに配慮しました。性差についても徐々に改善されています。

原田のコメント。以前スウェーデンの住宅政策についてブログに書きました。スウェーデンは大戦前ヨーロッパで貧しい国でしたが住宅政策を充実させることで世界でもトップクラスの経済発展を遂げました。経済成長のモデルとしてシンガポール、スウェーデンの政策は大いに参考になります。

また、元フランス政府建築長(日本にないポストで、大統領の下で公共建築、都市開発を担当する最高ポスト、日本で例えば有能な建築デザイナーが国交大臣を務めるイメージ)ベルモン氏から直接聞いた話です。スラムにこそ良質なデザインの公共住宅を供給し、住民にプライドを持たせることが大切と語っていました。

もう一つ重要なことは政治家の知的水準の高さとモラルの高さです。モラルの低い国では公共事業が生み出す富を独裁者が独り占めし、社会に還流されません。シンガポールでは政治家と官僚の知的水準とモラルが高かったと言えます。港区長を務めた際、官製談合、開発利権を直接耳にしました。

シンガポール住宅開発庁の元建築長は英語を勉強しアメリカで建築を学び国家の再建に貢献したいと語りました。私も英語を勉強しアメリカで建築を勉強し日本の社会に貢献したいと思いました。カー氏にシンパシーを感じます。帰国後、一部の方から「アメリカかぶれ」「デザインなんかどうでもよく必要最小限のものを作ればよい」といった声がありました。日本はまだまだ開かれていない国と言うのが率直ない印象です。これから世界競争に勝ち抜くために国際理解、異文化理解(口だけでなく)、そして実践が必要です。