ベルリン、パリ、ローマ、イスタンブールなどの諸都市を歩いて感銘を受けることは、工事現場の美しさです。1999年ベルリン崩壊10周年の建築国際会議に出席しました。再開発の現場に強烈な赤の「現場展示場」が設置され、多くの観光客が工事現場を視察していました。また、仮設の上下水道管が道路上空を跨って設置されていましたが、ピンク、緑などきれいに塗装され、殺伐になりがちな工事現場の雰囲気をよくしていました。また、クレーンの色も工事現場の景観をよりよくする配慮がされていました。
2016年5月建築の国際会議でイスタンブールを訪問しました。石造の古い寺院の改修工事をしている現場で驚きです。仮設のシートは実際の石組みをプリントしており、遠くからはリアルな石造としか見えない配慮がされています。工事現場の仮囲いのデザインの美しさはパリ、ローマでも見ました。
日本の工事現場は清潔で安全配慮がされていますが、仮囲いのデザイン、景観配慮については大きな課題があります。広告物条例とも関連します。港区長時代、ある開発業者が青山通りの工事現場で美しくデザインした仮囲いを建て、青山通りに賑いを創出しようと考えました。その方が港区役所に広告物条例に基づき仮囲いのデザインの許可申請を出したら却下されました。都議会議員O氏がその方をお連れになり、区長室を訪問、事の経緯を説明しました。私は街を美しくし、賑いを出してくれるならありがたい話と理解し、東京都が施行している広告物条例の弾力的運用を部下に指示しました。広告物条例の本来の目的は都市を美しくすることです。実際は新宿歌舞伎町の繁華街のように写真を撮ると看板しか写らない都市が残念ながらできているのが現実です。広告物条例の運用について石原知事と議論してもよい、という覚悟で指示しました。そうこういっているうちに石原さん自ら広告物条例を改正、都バスのラッピング広告、都電のラッピング広告、電車のラッピング広告などあふれるようになりました。役人は厳格に法律や条例を執行するのが仕事です。上記の港区の職員は条例に基づき正しい判断をしました。そこから先は「政治判断」です。私は街を美しくするため、また、街ににぎわいを創出するため、当時の広告物条例の問題を指摘し、弾力的運用に踏み切りました。良かったと思います。