ブルムバーグ通信3月31日配信の記事の一部紹介です。1930年代スウェーデンの住宅事情はヨーロッパで最悪でした。スウェーデンは貧しい農業国で、多くの国民が祖国を捨て新天地アメリカを目指しました。出生率はヨーロッパで最低でした。適切な質の住宅がなかったことが原因でした。当時の住宅事情は、石と煉瓦で造られた自然光も十分でない安普請の賃貸住宅でした。子供を産もうとする動機がありませんでした。
こうした住宅問題に対し「豊かな子供の家」Barnrikehus(barn:子供、rike:豊、hus:家)という集合住宅が低所得者のため、中心市街地の外縁に建設されました。シンプルな近代建築の意匠です。この住宅建設がスウェーデンの社会民主主義の転換点になりました。
1934年、ノーベル文学賞のアルバ・ミュルダールと夫のグンナーは「人口問題の危機」を出版。著書で「無料の医療、児童福祉の充実、家事は有料」という提言をしました。この提言で家賃補助、手軽な住宅ローンの制定で住宅政策の改善につながりました。自治体は、土地所有者に対し低所得者のためより良い住宅を供給させる政策を展開しました。住戸面積は40㎡、奥行き12メートル以内で、風通しが良い板状集合住宅です。日当たり、風通しが良いので当時流行した結核感染の防止にもなりました。セントラルヒーティング、トイレ、温水設備、洗濯室も設置されました。働く母親のために保育園も併設されました。大変革です。出生率上昇のため、家賃は子供が多くなると低減されました。戦後、スウェーデン政府は低所得者のみならずすべての国民に適切な質の住宅供給をしました。
参考に、2003年と少し古いデータですが(たまたま手元にありました)、家族。子供向け公的支出の対GDP比率と合計特殊出生率で見ると正の相関があります。家族・子供向け公的支出の対GDP比率が3%から4%の国は、出生率は1.6%から2%です。スウェーデンは家族・子供向け公的支出の対GDPは3.5%、出生率1.7。日本は家族・子供向け公的支出の対GDP比0.75%、出生率1.3%です。
最近政府が「子ども庁」設立しようとしています。スウェーデンの100年間の住宅・社会政策は参考になります。しかし、懸念。日本の予算は、従来の既得権の積み重ねでがんじがらめになっています。この際、前例と決別し、子育てしやすい住宅政策含めた子供政策の予算を政治力で確保することを期待します。建築デザインの観点から、社会建築こそ意匠にエネルギーを注入すべきです。上記の「豊かな子供の家」のデザイン思想、ルネッサンス建築の代表作のフィレンツェの孤児院(罪なき子供の家)、欧米各国に見られるデザインの優れた公共住宅を参考にすべきです。