シンガポールの経済成長、成功の要因に持ち家政策、その背後に優秀な建築家の存在

ブルムバーグ通信22年6月23日によりますと、世界でも経済がトップクラスで、コスモポリタン都市シンガポールの成長、成功の背後に持ち家制度の住宅政策(持ち家比率が世界で最も高い。市民の90%以上が良質なデザインの公共住宅を所有)、そして、その背後に優秀な建築家の存在がありました。住宅開発庁の元建築長リュー・サイ・カー(Liu Thai Ker)です。84歳、イェール大学卒。50万戸以上の公共住宅の開発を監督しました。

大戦後、マレーシアとシンガポールは極めて貧しく、環境も最悪で、シンガポールの川は下水と同じレベルでした。シンガポールはマニラ、ヤンゴン、ホチミン市などよりも遅れていました。カー氏は「大学で勉強し、英語を話せるようになりたい、イェール大学留学後著名な建築家I.M.Peiの下で修業、国家の再建に貢献したい」と思い住宅開発庁に就職しました。1960年代シンガポールの3/4が高密なスラムに住んでいました。氏はアメリカや西欧の都市計画、ニュータウンを見て参考としました。西欧にない「自己完結、自己充実したニュータウン」づくりを目指しました。住宅を建設したのではなく「コミュニティ」を建設、「近隣住区」を作り、その中に1寝室から5寝室の多様な住宅を作りました。ポイントは同じ近隣住区に、1寝室と2寝室を組み合わせ、2寝室と3寝室を組み合わせました。近隣住区の中で経済格差を生ませないようにしました。また、暗い中廊下形式は雰囲気が悪く争いも多いことから中廊下形式を排除しました。

そうした思想の背後に、氏はシンガポールの唯一の財産は「人」であり、人としての基本的なニーズ(衣食住)を満足させることで、住宅があれば仕事に集中でき、また、社会に根を生やし、しいては国家を守り経済建設に貢献すると考えました。シンガポール住宅開発庁は住宅を貸すのでなく売ることです。住宅開発庁の仕事は、住宅の価値を高めることと公共住宅の供給をモニターすることです。国民が多額のお金を使わず需要よりも若干多めの住宅を供給するようにしました。その結果経済成長につながりました。シンガポールがさらに発展するために、第一世代の政治指導者による英才教育により国民の教育レベルが高くなり、また、労働市場の観点から異なる民族に仕事を提供することに配慮しました。性差についても徐々に改善されています。

原田のコメント。以前スウェーデンの住宅政策についてブログに書きました。スウェーデンは大戦前ヨーロッパで貧しい国でしたが住宅政策を充実させることで世界でもトップクラスの経済発展を遂げました。経済成長のモデルとしてシンガポール、スウェーデンの政策は大いに参考になります。

また、元フランス政府建築長(日本にないポストで、大統領の下で公共建築、都市開発を担当する最高ポスト、日本で例えば有能な建築デザイナーが国交大臣を務めるイメージ)ベルモン氏から直接聞いた話です。スラムにこそ良質なデザインの公共住宅を供給し、住民にプライドを持たせることが大切と語っていました。

もう一つ重要なことは政治家の知的水準の高さとモラルの高さです。モラルの低い国では公共事業が生み出す富を独裁者が独り占めし、社会に還流されません。シンガポールでは政治家と官僚の知的水準とモラルが高かったと言えます。港区長を務めた際、官製談合、開発利権を直接耳にしました。

シンガポール住宅開発庁の元建築長は英語を勉強しアメリカで建築を学び国家の再建に貢献したいと語りました。私も英語を勉強しアメリカで建築を勉強し日本の社会に貢献したいと思いました。カー氏にシンパシーを感じます。帰国後、一部の方から「アメリカかぶれ」「デザインなんかどうでもよく必要最小限のものを作ればよい」といった声がありました。日本はまだまだ開かれていない国と言うのが率直ない印象です。これから世界競争に勝ち抜くために国際理解、異文化理解(口だけでなく)、そして実践が必要です。

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