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「沿岸域」 1995年 第8巻第1号 p40〜43

景観計画-アメリカの事例
㈱SEC計画事務所代表 原田 敬美
全米ウォーターフロント協会日本担当


はじめに
 ウォーターフロント開発のモデル的事例として、国際的に評価されているアメリカの事例の中から、シカゴとニューヨークの例を紹介し、今後の日本での景観計画取組の課題提起をしたい。
 アメリカでは、今日ウォーターフロント開発は広く浸透し、市民の関心の的となった。90年代に入り、ウォーターフロント開発は固有の分野として確立したと言える。ウォーターフロント開発のデザイン上の課題として指摘されているのが4点ある。
 (1) 水の存在、水の歴史をどうデザインし、活用するか?
 (2) ウォーターフロントの公園、古い建造物の修復、保存、再利用、商業施設への転用をどうするか?
 (3) ウォーターフロントの工業的土地利用から住宅開発などの土地利用の転換をどうするか?
 (4) 1〜3を踏まえ、景観計画の必要性が増大したことにどう対応するか?
こうした脈絡の中で、景観計画が重要課題となってきた。

1.シカゴ川の事例
 シカゴ市内をミシガン湖へ流れるシカゴ川は長い間その存在自体が無視され、放置されてきた。88年代に河川沿いの整備の必要性が唱えられ、市内中心部を流れる10kmについて「シカゴ川アーバンデザインガイドライン」が、市民団体、都市計画局、都市計画審議会の共同作業で用意され、90年、市長が公式に承認し、「シカゴ川は市の縁でなく、中心軸である。」とした。整備目的は5点ある。
 (1) シカゴ川両側に連続した遊歩道を創る。
 (2) 市内で働く人や来訪者が、容易に近づける静かな緑のオアシスを創る。
 (3) 観光客にとって魅力ある空間に造り変え、理想的な場所というイメージを高める。
 (4) 川沿いの建築的な魅力を高める。
 (5) 川を市の開発の中心軸とする。
 目的を実現する為に、ガイドラインの主な内容は次の通りである。
 (1) <セッ トバック> 川からのセットバックは最小限9m、推奨直は15mとする。
 (2) <川への開放度> 建物の川へ面する長さが120mを超える場合、15mの開放空間を設け、背後からの眺望軸を確保する。
 (3) <用  途> 川沿いの用途は商業、レストランとする。(賑わいを創り出す。)
 (4) <使用材料の制限> 低層階では反射性のガラスは使わない。
 (5} <排除するもの> 広告板、コンクリート擁壁、倉庫、駐車場(15m以上離す。建築物の駐車場は30m以上、ビル内駐車場は9m以上離す。)

 図(シカゴ川ウォーターフロント開発概念図)―省略(PDF原稿を参照してください)

2.バッテリーパークシティ(ニューヨーク)
 バッテリーパークシティは世界貿易センタービル建設時に生じた土でハドソン川沿いを37ha埋め立て建設された新しい都市である。ニューヨーク市内の名所のみではなく世界の観光名所としても有名な所である。
 マスタープランのポイントは、商業施設を中央に、その南と北側に住宅、ハドソン川沿いに幅21m、長さ2kmのプロムナードを配置した構成で、土地利用は、42%が住居(14,000戸)、30%オープンスペース、公園、プロムナード、19%道路、9%商業・業務である。
 バッテリーパーク開発公社がデザインガイドラインを作成した。
 街路構成は、マンハッタン南部の都市の文脈に配慮し、また、東西方向の主要な街路がハドソン川に繋がるようレイアウトされ、街路を使い空間を統合し「場所」を創りだし、端正で賑わいのある都市を生み出している。
 建築はモダニスト(1950〜60年代の流行の鉄とガラスの四角い箱)を拒否し、古き良きニューヨークをイメージさせるものとした。
 例えば、住宅が10棟建っているレクタープレースという街区では、街区に面した壁面に関して、下の2層は暖色系のアースカラー(土色)の石とし、上階はレンガ使用が望ましいとし、下階と上階の見切りの軒蛇腹の水平線を強調、建物を視覚的に連続させるとある。
 また、街路、公園は地区内の目標地点へ連続性が形成されるようデザインされた。
 川沿いの幅21mのプロムナードは、途中の公園を媒介に、バッテリーパークシティ全体に一体感を醸し出すのみならず、ニューヨーク市民の為にウォーターフロントへのアクセスを提供している。

 図(バッテリーパークシティ開発概念図)

3.ホボケン市ウォーターフロント再開発計画
 ホボケン市はマンハッタンの対岸側ニュージャージー州側にあり、ハドソン川に面し、マンハッタンの眺望を楽しめる立地にある。
 ウォーターフロントの古くなった倉庫街を中核に陸域12ha、水域17ha合計29haの複合開発である。再開発の基本理想は、ホボケンの既存の都心と水辺を繋げ住宅1,600戸、マリ一ナも含めた30万㎡の複合開発である。
 再開発地区内はホボケン市の衝路の基本のグリッドバターンをそのまま引用し、水辺にプロムナードが配置される計画である。
 再開発の目標は、①世界レベルのウォーターフロント開発、②都市とウォーターフロントの接続、③ウォーターフロントの美しさを市民のために回復、④高品質の複合開発、⑤経済開発によるホボケン市の歳入増と雇用の増大の5点である。
 計画コンセプトは、ホボケン市の歴史的な特徴とヒューマンスケールの住宅地の街路と低層低密のレンガを使った街並みの再生である。
 計画内容は次の通りである。
 (1) 既存の都市の街路パターンと都市の文脈を引用し、特に東西方向の主要な通りをハドソン川へ繋げ眺望軸を確保する。
 (2} 土地利用は高密度な商業と低密な住居とする。
 (3) 日影と眺望を配慮し、高層は南側の一画のみとする。
 (4) 街区毎に高さ制限をする。
 (5) 密度は既存の都市と同程度とする。
 (6) ウォーターフロント沿いのプロムナードとフェリーターミナルプラザにオープンスペースを配置する。
 (7) 街路に面した建物の壁面は低く押さえ、水辺への眺望に配慮する。
 (8) 主要な壁面はレンガ、石とする。1階は石とし、反射性ガラスは禁止する。
 {9) 暖色系のアースカラーとし、強い色は禁止する。
 (10) 主要な街路に面する1階は、奥行き4.5m、高さ6mのアーケードとする。

 図(ホボケンウォーターフロント景観規制図の一部)―省略(PDF原稿を参照してください)

4.事例からみる景観計画の示唆
 限られた事例だが、以上の3例から景観計画で配慮すべき点は、次のように整理出来る。
 (1) 市民参加
 シカゴの景観ガイドラインは『市民が中心となって市当局と協力して策定した』とあるが、市民参加の方法とその度合いは景観ガイドラインが市民生活に根付く鍵である。
 (2) 都市設計の中核
 ウォーターフロントは特別に価値を有する空間である。ウォーターフロントが存在する都市は、ウォーターフロントを中核として都市設計を進めるべきである。
 (3) 既存の都市の文脈への配慮
 ウォーターフロントに面した地区は、独立した特別な場所として設計するのではなく、既存の都市の街路パターンとか、建築の同質性に配慮して設計する事が大切である。
 (4) ウォーターフロントの連続性の確保
 ウォーターフロントは出来る限り連続性のあるプロムナードとし、途中に公園、オアシス空間設けメリハリをつける。
 (5) 背景地からの眺望の確保
 ウォーターフロント開発の際、隣接する背後の都市から水辺への眺望を確保する為の眺望軸を創り出す必要がある。
 (6) 複合的な用途の創出
 人やヨットが存在し賑わいを醸し出すことも景観の重要な要素である。ウォーターフロントには商業・業務空間に加え居住空間も配置し、またマリーナなどのレクリエーション空間を配置する事で、24時間賑わいを生み出す事が大切である。


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