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「A+U」1974年4月号 p15〜18

■キャンパス造り①

ライス大学建築学部 ーテキサス州ヒューストン

原田 敬美


■日本では、アメリカのアカデミックな中心を東部のエスタブリッシュメントの中に求める傾向が強いように思われる。しかし、いろいろな意味で日本でもっと注目すべき大学が他の地域にもいくつかあり、その一つにライス大学がある。筆者自身、ライス大学の持つ特異な教育内容に引かれて、1974年から2年間にわたり建築を学んできた。そうした自分自身の体験を踏まえて、ライス大学の建築学部を紹介したい。

南部の名門ライス大学

■「サンベルト時代」という名で象徴されているように、現在徐々に進行しているアメリカの政治・経済の変化。その変化の最も中心にあり最も重要な都市が、全米5番目の大きさを誇るヒューストンである。

■ライス大学は、1891年にウィリアム・マーシュ・ライス(William, March Rice)が、そのヒューストンの地に研究機関として、W. M. Rice Instituteを創立したことに始まる。1912年に研究所を一般に開放し学生を受け入れ始め、理工系に多少の重点を置いた総合大学として今日に至っている。

■現在、大学の規模は、教授陣が325人、学部生2400人、大学院生600人と、総合大学としてはこじんまりした大学であり、また3000人の学生に対して300エーカー(121ヘクタール)という緑に覆われた広大なキャンパス、少人数家庭的な教育と教育環境は大変良好である。教授1人に対する学生数は、全米中最も良い条件を整えた大学である。

■南部地域でライス大学の地位は、群を抜いており、毎年入学する新入生の600人は、4〜5倍の競争率※1という難関をくぐり抜けて入学してきた学生たちであり、また600人中三分の一は、高校を主席で卒業したというエリートが集まっている。

■ちなみに、1971年のアメリカ教育委員会(American Council on Education)の資料によると、全米2000余ある4年生大学の中で最も教育内容の高い大学として”A”という評価を与えられた大学は、僅かに27校であり、ライス大学はその一つである。また特に小規模な大学(学生数が2500人〜5000人)ということで見ると、”A”という評価が与えられた大学は、ダートマス、プリンストン、ブランディーヌ、カリフォルニア大学サンディエゴ校とライス大学のわずか5校である。
■こうした資料から、ライス大学が南部の名門校であり、かつアメリカの中で優秀な大学の一つであることが理解されよう。
■ライス大学の創立者であるライスは資産家であり、例えばNASAの指令センターの広大な土地は、ライス大学がアメリカ航空宇宙局に提供しているものであるというのは興味深い。財政難で苦しんでいる多くの大学に比べ、ライス大学はスポンサーが安定しており、財務事情は良好で、奨学金や特別研究費の支給など比較的豊かである。

トップ・ファイヴの一つ

■ライス大学建築学部は、1975年のディーンズ・リスト(Dean’s List)によると、建築学科を持つ全米の大学の中でトップ・ファイヴの一つとして評価されている。
■ディヴィッド・クレイン(D.A.Crane)を学部長(Dean)とし、教授陣46名、学部、大学院合せて学生数220人で教授1人に対して学生5人という恵まれた環境である。4年前には、日系人で元テキサス大学オースチン校建築学部長タニグチ氏が主任(Director)を務めていた。また、その前は、ヒューストンC.R.S.のC.であるコーディル(Caudill)が主任を務めていた。

―――――――――――――――――
学生数(1975年)
―――――――――――――――――
1年生 31人
2年生 33人
3年生 33人
4年生(Bachelor of Arts) 31人
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5年生※2(Bachelor of Architecture)
修士(Master) 76人
博士(Doctor)
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研修中の学生 16人
―――――――――――――――――
合  計 220人
―――――――――――――――――

カリキュラム

■大学院修士課程では、建築とアーバン・デザインの2つの学位(Master of Architecture, Master of Architecture in Urban Design)のいずれかが取得できる。建築の学士号を持っている学生は、原則として2年で修士を取得することになっている。
■カリキュラムの柱として、次の4つの専攻分野が用意されている。
1 住宅問題・住宅計画(Housing and Community Development)
2 地域施設(Community Facilities and Community Development)
3 交通計画・交通施設(Transportation and Urban Infrastructure)
4 医療施設(Health Care Facilities and Delivery System)
■しかし、自分で興味の対象があれば、もちろん研究テーマを自由に選べる。
■また、最近アメリカの大学の傾向として流行しているのだが、Double Degree Programといって建築と他の学部との学際的領域を勉強したい学生には、そうした道も開かれている。医療施設に興味を持つ学生は、公衆衛生学の修士という具合に、研究の対象に応じて社会学、経営学、土木工学、環境工学など他の分野の修士号を同時に取得することが可能である。多少付け加えると、例えば、医療施設研究の場合であるが、ライス大学に隣接して、テキサス・メディカル・センターという全米でも屈指の医療センターがあり、そこでの講座の取得が可能である。医療関係の授業を取ることによって建築と公衆衛生の2つの修士号を同時に取得し、医療施設の本物の専門家として活躍できるわけである。

ユニークさ

■ライス大学建築学部の教育方法の特色として次の3点を挙げることができる。
1 少数ですみずみまで行き届いた教育
2 研究と実績
3 チームによる作業
■1については既にふれたが、体験に基づいてさらに説明を加えてみると、例えば、学部長のクレインの設計の授業である。学生は6人で、教える側はクレインと専任講師の2人で、熱い議論を毎時間戦わすといった様子で、日本の大学ではもちろんのこと、アメリカの他のどこの大学でも見られないほどの密度の高さと言えよう。
■2については、ライスだいがくでは、理論ばかりでなく実際の仕事を知るということも非常に重要視している。その具体的な現れとして実務研修の授業が必修となっており、学部の場合4年生もしくは5年生の時に1〜2学期間ほど、それぞれの学生にふさわしい建築事務所で実務研修を行う。研修受け入れ先として提携のある事務所は、TAC、CRS、ローチ、マイヤー、ミッチェル/ジェゴラ、SOM、ペイなどで、著名な建築家の所で授業の一環として研修を積む機会に恵まれる。英・仏・独など諸外国にも受け入れ先があり、興味深いことだが、日本では槇事務所が受け入れ先となっている。
■3について、ライス大学での教育は、2〜3人で構成されるチームが中心となり活動する仕組みになっている。設計のコースでも、講義でもチームで行動させ、学生の協調性をはぐくみ、意見を発表したり交換したりする訓練をさせる。一見何の変哲もないことに見えるが、この蓄積は将来大きな影響を与えるであろう。これはチームによる建築(Architecture by Team)で知られているC.R.S.のCaudillがライスのDirectorをかつてしていた遺産と思われる。

ライス・センター(Rice Center for Community Design and Research)

■大学とは独立した組織として研究所(ライス・センター)が、教育・研究の充実・向上を目指して1972年に設立され、建築から都市・環境問題まで、幅広い研究に従事しており、大学院レベルの学生の研究や実務研修の場としても使われている。スタッフとして、建築の教授陣はもとより、他学部の教授や他大学の教授も研究員として入っており、幅広い学際的な研究の機会が与えられる。

実験室 ヒューストン

■ライス大学建築学部は、天然の実験室を持っていると言えよう。つまり、ライス大学は全米随一を誇る成長率で発展しているヒューストンに位置しているということである。
■ヒューストンは、石油、エレクトロニクス、海洋産業などの工業、またテキサスの重要な産業である農業の中心都市として、そして当然業務管理の中心都市として幅広い機能を果たしている。「アメリカの新しい業務センター」、「21世紀の未来都市」と称され、今世紀末にはシカゴと並ぶ都市になるであろうと予測されている。ニューヨークを始めとして多くの大都市が財政危機や諸々の都市問題で死に瀕している中、ヒューストンのみ華やかに発展している。かの評論家ハクスタブル女史をして「ヒューストンのみ未来がある」と言わしめた発展ぶりである。
■ヒューストンは、これまでニューヨークなどの都市が抱えた諸問題をいかに回避して健全な都市づくりをするか実験中で、都市活動・建築活動がまさに盛んに進行しているところである。そうした意味でヒューストンという場所自体がよき研究材料を提供してくれるわけで、市全体が実験室のようなものである。建築や都市の「生」の勉強をするのにこれ以上ふさわしい場所はないであろう。


おわりに

■ライス大学は、以上述べてきたような良い環境を備えた大学であるにもかかわらず、日本からの学生は、ほんのわずかである。
■今後、ヒューストンの政治的・経済的重要性が高まるにつれ、学問の分野においても南部の名門校であるライス大学が果たす役割が高まるであろう。日本の若い学生にライス大学で学んでもらいたいものである。
■ライス大学の先生方も、日本から学生がきてくれないかな、と熱望していたということも最後に付け加えておきたい。

※1 アメリカの大学入学制度を考えるに、これはかなり高い競争率といえる。
※2 アメリカの大学では、4年間の学習で取得できるのはBachelor of Artsであり建築学士(Bachelor of Architecture)は取得できない。建築学士を取得するために、さらに1年間の年限を必要とする。つまり5年生というのは、建築学士を目指している学生を意味する。また、建築以外の学士号を所有し、建築の修士号を目指す初年度の学生のことをも意味する。

 写真(ライス大学キャンパス、ヒューストン市街など多数)―省略


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