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建築学会都市ビル実態把握分科会資料 平成14年(2002年)

東京の市場環境 (オフィス床と住宅床) 一Hー 3 調査より
正会員  深尾 精一
 同   小畑 晴治
 同   原田 敬美


 Keywords:コンバージョン 都心居住 都心オフィス床需要

1. はじめに
 経済の低迷が続く中、都市中心部のビル空室化が深刻な状況となっている。ここ数年来、『都市間競争不可避』とか、『IT立国こそ経済再生の近道』というプロパガンダと他力本願の景気回復期待に始まった東京都心再開発プロジェクトが、業務ビルの同時大量供給を産み出そうとしている。この過剰供給が、カタストロフィー的な業務床市場の破綻を招くのではないかという懸念が、いわゆる『2003年間題』である。
 バブル崩壊以降、これまであまり表面化はしていないが、都心部の小規模業務ビルのテナント流出が始まっており、下町の卸問屋地区等では深刻な問題となっている。例え空室化していなくとも、相応しくない立地に建設されたビルでは、上層階にまでサラ金事務所や風俗店が入っているケースが数多く見うけられる。千代田区や台東区では、数年前から業務ビルの住宅への用途転換に対する助成制度も始められている。
 一方、住宅市場は好調で、都心や市街地内では、分譲価額・賃料水準が高止まりとなっている。この結果、数年前項とは様変わりして、これらのエリアで、業務ビル建設より、マンション建設の方が、開発利益が大きいという状況がかなり見受けられる。新規開発の場合に留まらず、年代を経た建物の賃料にあっても、住宅賃料単価の方が業務床単価より高いというケースが一部エリアで見られる。業務床として募集に反応が見られなかったペンシルビルを賃貸住宅床に替えたらすぐに契約が決まったというケースもある。
 ビル経営者の意識として、「住宅床を人に貸すと居住権が付いて後々問題が出る」とか、「業務床は住宅床とは別物で価値が違う、信用に関わる」というような、不安やプライドが強く存在する。不動産取引慣行や不動産鑑定評価も、現行ではその考えを凝り固まらせる方向にのみ作用してしまう。既存建物に関しては、ネガティブな評価(アセスメント)が先に立ち、ポジティブな評価(エヴァリュエーション)が、全く出てこないのが実情である。
 日本の住宅家賃の高額さに辟易している外国人の不動産関係者が、空きビルの状況をつぶさに見て、何故住宅に転用しないのか語るケースすら出ている。欧米や豪州の大都市でビルが高級住宅に転用されている事例は枚挙に暇がない。

2. 既往データに基づくオフィス床需給状況

 図2-1 オフィス着工面積の推移―省略
 表2-1 23区主要大規模オフィスビル竣工予定(10万㎡以上)―省略

 課税資料では、都内区部のオフィス床面積は2000年時点で約8千万㎡、うち都心3区が約半数を占めている。供給面からみると、バブル後93年以降落ち込んでいた着工面積は99年以降大幅な増加に転じ、特に都心3 区の増加が著しい。(図 2-1) これは2001年以降、都心3区を中心に大規模オフィスビルが450万㎡以上計画されていることにもよる。(表2-1)
 次に、需要面から業務床仲介業者のデータを見ると、東京都心部の業務床の空室率が上昇している。(図 2-2)「オフィスビル市場では空室率が5%近辺に達すると需給緩和局面に入った目安とされ、平均賃料も下落傾向にある。…今後も緩和傾向が続く公算が大きい。」 (平成14年4月7日付日経新聞) また、仲介業者が掌握している状況は、一定規模以上のものに限られており、中小ビルの実態は把握されていない。

 図2-2 都心5区平均空室率―省略

 また、都心部の新築オフィスビルの需給も急速に緩和している。(図2-3)「機能・立地に優れる大型物件でも、テナントとの成約に時間がかかる傾向にある。」(平成14年3月22日付日経産業新聞)

 図2-3 都心5区新築ビルの平均空室率―省略

3. 既往データに基づく東京の住宅需給状況
 東京都心5区では、前年比人口は97年から、世帯数は95年から連続して増加している。この受皿となる住宅供給も拡大しており、住宅の着工は2000年以降特に活発になっている。(図3-1)民間不動産情報サービス会社の調査によると、「2002年4月の首都圏の賃貸住宅成約数は前年同月を2割以上上回り、92年の調査開始以来最高の水準に達している。」(アットホーム調べ)(図3-2)

 図3-1 都心3区の住宅着工戸数の推移―省略
 図3-2 首都圏賃貸住宅の成約増減率(1都3県)―省略

 また、マンション賃料水準も23区平均ではほぼ横ばいであるが、都心3区では上昇傾向にある。
 図3-3―都心3区の賃料指数の推移―省略

 不況に強いといわれる賃貸住宅の供給は、民間の単身向けマンショ ンや公団等のファミリー向けマンションを中心に好調である。都心部に戻ってきた分譲のファミリー向けマンションも好調さが加速し過ぎたことで、一部の自治体に抑止の動きが出始めている。

4. 不動産業者・ビルオ一ナ一の意識
 今後の用途転換の可能性を検討するため、オフィスの流通市場を構成する都心のビルオーナー及び仲介業者を中心に、用途転換に関するヒアリング調査を実施し、現時点での意識と展望、今後の課題を探る上での手掛かりとした。調査対象はオーナー3名、仲介業者9名、リフォーム業者1名、調査期間は2001年11月〜12月である。
(1)オフィスの需要動向
 神田、岩本町、東日本橋、茅場町の周辺等でかなり需要が落ち込んでいる。今後は離等地商業地にオフィスが集中する二極化が進行すると予想され、2003年間題は需要の落ちている地域では大きな懸案となっている。最近の大規模開発では、新規流入と周辺の集積効果が期待されている。
アクセス不便立地、旧耐震設計、セントラル空調、水廻り環境劣化、低天井、IT設備対応不全、600坪以下の中小ビル、企画の悪いビルで競争力が弱い。
(2)オフィスビルオーナーの特性
 オフィスビルオーナーはオフィスに特化しており、住宅転用という視点を持たない。オフィスの方が管理が容易であるため、レントギャツプが小さいとオフィスを選択する。
都心では地価>建物価格であり、オーナーは建物の再利用より土地の有効活用を考える。オーナーの関心は投資効率と相続税対策であるため、これらに対するインセンティブは誘因となりうる。
(3)都心住宅需要
 法人の土地放出による都心マンショ ン供給が増加しており、都心居住トレンドが強まる可能性がある。住宅は立地ブランド力が大きく、周辺環境に左右される。
都心居住のニーズは単身者、SOHOからファミリーまで存在する。職住近接を重視する外資系や自営業者、子育て後の団塊の世代、ディンクス、老夫婦等は対象となる。
SOHO、セカンドハウス、スタジオタイプ、商業地のワンルーム、デザイナーズマンションといった付加価値住宅は需要がある。
(4)コンバージョンに対する意識
 コンバージョン住宅が既存・新築の専用住宅に競合できるか疑問がある。残テナントの立退交渉と高額補償費や高額の改修費で過大投資となるのではないか。費用面や税制面で行政の誘導策が必要である。古いビルでは住宅ローンや証券化に対応できない場合がある。ペンシルビルで1フロアを1戸とする改修は比較的容易と思われる。
 遮音性能、混在ビルの動線分離、駐車場・駐輪場、ゴミ処理、セキュリティ、等の課題があり、管理はオフィスより難しい。オーナーに対するしっかりとしたコンサルテーションが必要となる。需裏側の都心居住ニーズを把握する必要がある。
 海外事例は豊富だが、まちや建物に対する意識の違いが大きい。資源の有効利用や人口増による行政・町会・商店街へのメリットをアピールする必要がある。また、今後のビルをコンバージョン対応とする必要がある。

5. 行政の動き
 国土交通省では平成 12〜13年度に「都市・居住環境整備基本計画策定調査(オフィスビル等のストック活用による都心居住推進方策検討調査)」を実施した。
 また、既に千代田区・台東区では既存ストックの住宅転用に対する助成制度を実施している。
 都市再生に向けた都心居住の推進、スクラップ・アンド・ビルドからストックの有効活用への転換は時代の要請であり、国土交通省では両者を絡めて平成14年度に「建築のストック活用型再生賃貸住宅制度」の創設を予定するなど、今後、国及び自治体による誘導施策の検討が進むものと予想される。

6. コンバージョン事業の兆しと先行事例
 千代田区の助成制度を利用した少数の用途転換改修事例は、前述の国交省報告書にも紹介されているが、民間においても小さなビルなどで業務床を住宅床に転換した事例がある。また、類似のケースとして商業床(量販店)を高齢者向け住宅に改造した例や、独身寮を高齢者施設に改装した例がある。
(1)事例1-最小限の投資で用途転換した事例
 ①従前概要:駒込駅歩6分、鉄骨ALC4階、各階31.33㎡、1994年築、2・3階事務室が築後2年半空室。 ②改修内容:ユニットバス設置、トイレ付け替え、ミニユニットキッチン付け替えのみ。 費用戸当り約80万円。③従後状況:改修後即時入居、以後空なし。
図 6-1(事例1の改修前 、改修後平面図)―省略

(2)事例 2-1フロア1戸の改修事例
 ①従前概要:銀座駅歩3分、SRC一部鉄骨組地上9階地下1階、1984年築。6階部分101.98㎡空室。②改修内容:既存床上に配管し床上げ、間仕切り、空調機・トイレ増設、ユ二ツトシャワー・温水器・キッチン設置。小型排水ポンプ設置。③従後状況:オーナー住宅として使用。
 図6-3(事例2の改修前 、改修後平面図)、改修前後写真―省略

(3)事例3一商業床を高齢者向け住宅に改造した例
 ①従前概要:敷地 2,479.51㎡、建築面積1,708.44㎡、延床面積約8,000㎡、RC造地上5階地下1階、1982年築。従前用途デバート。②改修内容:地下車路増設、耐震壁増設、床スラブ徹去、エレベータ増設等。③従前状況:2〜4階介護対応マンショ ン居室、1階マンション玄関・店舗・クリニック、地下駐車場。改修竣工1999年9月。

 写真(改修後建物外観北面、居室内部、内部共用廊下)―省略


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