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「いい住まい いいシニアライフ」 高齢者住宅財団ニュースVol.21 1997年11月10日 p38〜42

REPORT
スウェーデンの高齢者住宅最新事情
株式会社SEC計画事務所 代表取締役 原田 敬美


1.視察先の概要
 今年の8月、スウェーデンのストックホルムで、コンセプトの異なる3ヶ所の高齢者住宅を視察した。
 1つ目は、ストックホルム市内にある「リニューアルタイプ」のもの。
 2つ目は、ストックホルムから南へ鉄道で1時間の所に位置する、ニューネッシャム市にある「既存施設に増築したタイプ」のもの。
 3つ目は、ストックホルム市の北に隣接するソルナ市にある「新設の一般世帯向け集合住宅との複合タイプ」のものである。

2.高齢者福祉の背景にあるもの
 私事で恐縮だが、1971年にスウェーデンに留学し、カール・クリスチャンソン氏(元スウェーデン・インテリア建築家協会長)のもとで勉強した。
 当時ベーリングビー、ファルシュタ、シェルホルメン、テービーといった郊外型ニュータウンが建設され、若い世帯向けに住宅が積極的に整備されたが、高齢者は市内の老人ホームに、周囲から疎外されるような状況で生活していた。施設そのものは一定の水準で整備されていたものの、地域社会との関係が希薄で、孤独に暮らす高齢者の生活ぶりから見て、日本が参考にすべきものとは思わなかった。
 しかし、地下鉄のどの駅にも高齢者・障害者用のエレベーターが設置されており、公共空間での高齢者等への配慮には驚かされた。
 経済のメカニズムの面から見ると、日本の友人の月給が4万円であった当時、ストックホルムの設計事務所で仕事をしていた私の月給は、額面14万円と大金だった。しかし、税金は45%で手取りは7万円教。物価水準を考えると、可処分所得は日本の友人と結果的には同じであり、落胆したことを覚えている。こうした税金の流れが、当時、世界でトップと言われたスウェーデンの福祉を支えていたのである。
 様々な改革を経て、今日のスウェーデンの高齢者住宅、ケアの内容、生活環境、住まい方は大きく改善された。現在では、日本が参考とすべき内容は多数ある。
 今日の基本的な考え方は、24時間ケアで、可能な限り自宅で生活できることである。1995年の統計によると、ホームヘルプ、医療サービスを在宅で受ける高齢者は、スウェーデン全体で137,572人である。
 ケアのレベルが高くなるとケア付き住宅に移住するが、ケア付き住宅に入居している高齢者は、スウェーデン全体で129,843人である。費用の目安として、1ヶ月当たりの食事サービスと医療・福祉ケアの費用が5,000〜7,000クローナ(1クローナは15〜16円)で、部屋代が3,000クローナである。
 この費用は基本的に年金収入でまかなうが、所得に応じた減免措置がある。
 日本経済の物差しにすると、1ヶ月の部屋代とケア代を合せて、減免措置分を差し引かれると5〜7万円と、手頃な費用と言える。
 だが、所得税、保険料合せて所得の約70%となっていて、こうした高い福祉水準を支える経済のメカニズムは、考えようによっては一層過酷である。また、スウェーデン大使ヴァールクビスト氏との会話では、理論的には120%の所得税もあり得るとのことである。つまり、あまり稼ぎ過ぎると、得た所得以上の懲罰的な額の税を国家に納めなければならないこともあり得るそうである。
 また、氏によるとスウェーデンの福祉は高福祉高負担で、振り子が一方の極にいってしまった状態であり、今後は日本のような中福祉中負担も参考にしたいという意見もある。

3.ストゥーレビ高齢者住宅
 ストックホルム中央駅から地下鉄で10駅目にあるこの施設は、従前は旧タイプの老人ホームと医療団地だったが、一部屋当たり面積や、水回りの充実といった新しい時代の水準を満たすべく、外部構造をそのままに内装・設備を完全リニューアルしたものである。
 団地全体の広さは約5haほどあり、団地入口には日本の長屋門のようなゲートがある。ゲートをくぐってすぐの所に、こじんまりした本部事務所がある。管理者のノルマン氏に会い、昨年リニューアルが完了した1棟にご案内いただいた。
 従前の施設は1974年に建設され、規模は40m×14m、4階建てである。中廊下形式で、各階に12室、小部屋15㎡が5室、大部屋25㎡が7室あった。
 リニューアル後、設備を全て更新し、各階には9部屋設置し、1人部屋25㎡7室、2人部屋は29㎡と30㎡が1室ずつあり、合計11ベッドある。中央に廊下をはさんで、両側にデイルーム31㎡、キッチン31㎡がある。
 地階はOT、PTの部屋、特殊浴槽、スタッフ休憩室がある。
 1人部屋の広さは25㎡あり、ほぼ正方形でキッチネット、クロゼットが設置されている。天井には移動設備が装備されている。また、広い水回りが特徴で、2.3m×2.2mと、5㎡ほどの広さがある。管理者が支給するのは、高さ調節可能なベッドと収納タンスで、その他は入居者が使い慣れた家具や備品、写真スタンドを持ち込み、自分の住まいの雰囲気を創り出している。水回りには洗面台、便器、椅子式シャワーがあり、必要と思われる手摺が十分に設置されている。
 最上階の4階に、要ケアの程度が高い高齢者が10人入居している。歳高齢者は98歳。主に80〜90歳が多い。
 食事とケアサービス、部屋代の費用は1ヶ月4,000クローナである。
 また、ショートステイサービスとして、4部屋用意されていて、利用料は1日80クローナである。

 写真及び図面多数―省略(PDF版を参照してください)

4.ニューネッシャム高齢者住宅
  ニューネッシャム市は、日本でいえば、東京に対する湘南のような市である。ストックホルム中央駅から郊外電車に乗り、1時間の所にある終着駅の町で、裕福なストックホルムの人達が住みついたと言われている。また、近隣諸国とのフェリーの定期航路のターミナルがある。
 人口は22,981人(1996年12月31日現在)、65歳以上の高齢者人口は3,429人で、高齢者率14.9%である。うち80歳以上は932人で、4.1%を占める。
 1995年度統計によると、65歳以上の高齢者のうち、ホームヘルプサービスや医療サービスを受けている高齢者は262人、ケア付き住宅に入居している高齢者は287人である。
 同じ統計資料によると、市財政支出の項目で、高齢者福祉の市民1人当たりの年間支出額は約7,400クローナで、教育費の9,500クローナに次いで2番目に高い支出項目である。
 ニューネッシャム駅の東側には、大型マリーナとフェリーターミナルがある。西側が市街地で、駅から徒歩5分位の所に市役所があり、その南側の広い傾斜した敷地に本施設がある。敷地の西側には6階建ての既存施設があり、新たな需要に対応するために、部屋の規模の拡大や、設備のグレードアップが図られた施設が増築された。
 管理者ニルソン氏に案内をいただいた。その施設の平面形状はT字型で、市役所から連なる南北方向の道路に沿って、約45mの長さの棟と、既存施設を結ぶ形で直角に延びる棟が22mある。一部屋当たり35㎡の広さで、水回りは2.5m×2.5mで約6㎡ある。
 基準階には9部屋あり、各階毎にデイルームとキッチンがある。
 広いレクレーションルーム等の生活支援機能は既存棟にあり、既存施設の活用が図られている。
 1ヶ月当たりの費用は4,000〜5,000クローナである。市担当職員の話によると、入居者のためのウェイティんグリストはないとのことで、市専門職員と看護婦の2人のチームが基本的に入居が必要と判断すると、すぐに入居できる程度に部屋数はある。
また、費用負担についてだが、仮に月4,491クローナの年金収入がある場合、所得税が免除となり、収入を勘案した賃料が508クローナ(実施の賃料は2,500クローナだが、1,992クローナの補助金が支給される)で、残りが3,983クローナとなる。年金収入の35%が自己使用分として確保できる金額で、1,572クローナとなる。3,983クローナから1,572クローナを引いた残りの2,411クローナが、食事代やケア費用にあてられる。

 写真・図面多数―省略(PDF原稿を参照してください)

5.トリゲーテン高齢者住宅
 ストックホルム中央駅から地下鉄で北へ向かい、5つ目の駅ベリシャムラで降り、徒歩10分位の所の傾斜地に本施設がある。目の前には海が開け、ヨットハーバーが眼下に見える美しい眺めの敷地である。
 行政区域はストックホルムの北隣のソルナ市である。ソルナ市は人口54,644人(1996年12月31日現在)、65歳以上の高齢者人口は10,995人、高齢者率20.1%で、国全体の平均18%より高い。うち80歳以上の人口は2,843人で市の人口の5.2%を占める。市域面積は19.5haとこじんまりした市であり、周囲には比較的新しい団地が目につく。1995年統計によると、ホームヘルプサービスや医療サービスを受けている65歳以上の高齢者は843人、ケア付き住宅に入居している高齢者は868人である。同じ統計書によると、市財政支出で高齢者福祉の支出は最も高く、市民1人当たりで見ると、年間7,900クローナである。
 管理者のオロフソン氏に案内をいただいた。この団地は5年前に建てられたという。大きな特徴は、居住者特性の統合と機能の複合である。スター状の6〜7階建ての住棟が、丘陵状の敷地に9棟建ち、様々な年代の入居者がおり、その一部に高齢者住宅がある。中核となる棟の下階にはコンビニエンスストア、100席程度のレストラン、スポーツジム、プール、幼稚園、美容院など団地内の全ての人の生活に必要な施設、そして生活を楽しむための施設が併設されていて、若い世代と高齢者世代が、自然に交わる環境づくりが整っている。
 平面計画は、クラスター状の構造になっている。個室が数室集合して1つのクラスターとなり、そこにデイルームが中心にあり、さらに大きなグループを構成している。
 中央には明るいアトリウムがあり、そのまわりに廊下が囲むようにめぐらされている。施設全体で75部屋あり、各階毎に午前中はスタッフが2人、午後は1人、夜間は4人がケアを担当する。1ヶ月の費用は5,587クローナである。

 写真多数―省略(PDF原稿を参照してください)


 今回の視察で多くの方のお世話になった。各施設の管理者、ストックホルムの建築家の友人、そして東京のスウェーデン大使や大使館の方々に、誌面を借りて感謝する次第である。


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