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港区住宅公社レポート 1998年10月26日

21世紀における都心居住の考え方 (講演録)
原田 敬美


はじめに
 私は港区の住宅公社で定住促進研究会の会長を仰せつかっております。都心居住を考える際、私は従来の発想で考えるのではなく、一度従来からの発想と縁を切った状態で考えていかなくてはならないと思っております。
 私はベビーブーマーの世代で高度成長期に育った訳です。図によりますと高度成長に伴い東京圏(首都圏近郊含む)への人口の転出入をプラスマイナスで表示しておりますが、1962年頃は人口が約40万人と1年間で板橋、杉並区の人口に匹敵する人間が増加しています。首都圏(1都3県)全体で1960〜90の30年間で1,400万人の増加がみられます。この数字はオランダの人口が約1,400万人なので、30年間の高度成長の時代にヨーロッパの1つの国に相当する人口が首都圏に流入したことになります。一時期、都心の人口が増加しましたが、上京してきた方々が家庭を持つことにより、環七、還八より外側に住み始めていく(土地が高騰していくため)というように、大きく都市が変化してきました。地方(農村)の価値観、ライフスタイルの価値観も都心居住を考えるという問題のひとつではないかと思います。
 このような時代背景を考えてみたいと思います。私が大学に入る年1967年は大卒の初任給が約3万円でした。現在は会社や組織での違いはありますが約18万円です。単純に考えると初任給が6倍ということは、経済もそれぐらいプラスになったということです。私は1969年交換留学生としてアメリカへ行きましたが、その当時の為替レートが1ドル360円、現在は多少の変動はありますが1ドル120円ぐらいに推移し、反に120円とすると円とドルの関係は3倍程度円が高くなりました。30年間、日本の経済力は単純に3×6と約20倍経済が発展したのではないかと思います。1960年代後半の日本の大卒初任給が3万円、アメリカの大卒初任給が500ドル(約18万円)で、現在の日本の水準です。都心居住をどう考えるかということは、日本経済の変化の中で東京があるという考えを頭において欲しいと思います。

 図は省略(PDF原稿を参照してください)

いくつかの例示
 1960年代後半、ケネディ大統領暗殺後、副大統領であったジョンソンが大統領に着任してから2期目を就任していた時に私はアメリカに留学しました。ジョンソン大統領が、ディーゼルエンジンの会社の社長であったカミンズエンジン社長ミラー氏を会長に諮問委貴金を設置しました。彼は国防と外交の観点から検討し、アメリカで大都市が廃れるというのは国家的な危機になることから、大都市都心問題を国家戦略として位置付け、戦略を検討しました。私がその後2回目にアメリカに留学した1975年は世界の先進国で都心問題が発生しましだ。ニューヨーク市が倒産寸前にまで達し、連邦政府の直轄になる寸前でした。この問題解決のため様々な手法を導入し、衰退を押しとどめ、都心人口の回復のきざしが見え始め、都市問題は一定の解決を見て、現在都心人口は安定期に入り、ニューヨーク市は昔と比較すると安全な街になり、世界から投資を誘導したり、観光客を迎え入れることができるようになりました。発足をして答申を出して10〜20年程度経てニューヨークの街、その他のアメリカの大都市が復興してきたということです。
 1948 年にベルリン空輸というのがありました。ドイツの大都市ベルリンが、ソ連軍にソ連側の道路を閉鎖され、食料等を供給することができずベルリン市民が飢えて死に至ってしまう。しかし、ベルリンを守るという戦略から連合軍が空からベルリン市民に食料を供給していました。結局、連合軍よりの空輸が勝り、ソ連軍があきらめたという経緯がありました。面積的には僅かであるが、都市は人口が多く、国家の頭脳である都市が大事であるというわけです。
 日本の経済状態があまりよくないので、データが若干相違しますが、1990年代当初の都市の構造という観点から東京、ニューヨーク、ロンドンと世界の三大都市の大都市圏を比較すると、マンハッタンの人口150万人、都心4区と新宿を合せた人囗は55万人です。定住人口と就業者人口の比率は夜を1とすると、マンハッタンが1.6、都心4区と新宿をあわせたものは5.6の差がある。ニューヨークでは、都市の中で生活をしている。東京で考えると東京を1とすると、周辺の県よりの就業者人口が5.6倍入ってきている。朝集まり、夜各々の住居に戻る。いかに、土地利用面、通勤時間の浪費が大きいかが理解できるかと思います。人口は東京都心3区で26万人、パリは66万人、ロンドンは36万人という数字です。それから、ニューヨークでは都心3区と同じようなエリアで見ると150万人ですが、さらにマンハツタンという中心地で見ると16万人です。東京以外の都心部は、東京3区と比較すると人口が多く、これは、国家として都心居住政策をしていくなかで人口が保たれているからです。
 これから国際化さらにビッグバンとなっていく中、東京が国際的な金融の拠点となり、外国人が集まり、24時間眠らない街としての仕事場のそばに住居があるということが必要となります。そのような流れのなかで都心居住が大切になっていくのではないかと思います。

都心居住の海外事例
 都心居住の事例ということで、1.面的複合開発型、2.超高層型、3.ウォーターフロント型、4.快適環境創造型、5.リニューアル型の5つの項目に分けて説明していこうと思います。

1.面的複合開発型
パリの副都心デファンス地区
 1番目に面的な複合開発の例で、パリの凱旋門から直線で5km西側に行ったところにパリの副都心デファンス地区があります。パリ市内は古い建築物がある関係上、再開発をすることが不可能なので、人口と新しい就業者を招き入れるために新しい副都心を整備開発しました。ここでは就業人口が4万人、居住人口が1万5千人です。図面上では分かりにくいですが、人工地盤になっていて、この下に地下鉄や高速道路が走っています。地上は車が進入できなし、歩行者専用の空間で、両脇にはアパート(住まい)、オフィス、ホテルやレジャー施設(文化、福祉、映画館等)が並んでいます。このような組合せで都心居住の活性化が図られています。


 写真―省略

 これは東京副都心新宿の開発の例ですが、パリの副都心の開発と時代的にはほぼ同一です。パリの副都心デファンス地区では職住ができます。当時の日本の経済状態では、高度成長を受けるためには業務中心の開発をせざるを得ないことから、ストレートに批判することはできませんが、新宿の副都心は全て業務専用のビルなので、住宅も一緒に供給されていればよかったと思います。

ニューヨークバッテリーパークシティ
 次はニューヨークのバッテリーパークシティです。ニューヨークのウォーターフロント ハドソン川沿いにある開発です。この地区の背後には、世界一ノッポと言われたワールドトレードセンターがあります。その建設の際に出された残土がハドソン川沿いの埋め立てに使用され、約37haの土地造成がなされました。2kmに亘ってウォーターフロントのプロムナードを造りました。土地利用の42%、14,000戸の住宅を供給しています。9%が業務、19%が道路、その残りが学校や公園等です。図からは判断しにくいですが、車が進入できないようにし、歩行者が安心して緑と水を楽しめる空間になっております。デザインガイドラインとして、1・2階の壁仕上げは暖色系のアースカラーの石貼り、軒蛇腹の水平線を強調し、残りの壁仕上げはレンガ貼りで、周辺に多くある20世紀前半にアメリカで流行した建築様式をデザインモチーフとしています。1階を基本的に店舗とし、壁面のセットバックにより歩行者空間を広く取り、アーケード状にして店舗へのアクセスをより便利にしています。この近辺に働いている方にとっては、数分で職場に通うことのできるロケーションです。居住者は比較的に高額所得者層であるため、それらの税収で市営住宅を建設したり、併せてこのような開発をして都心居住を可能にしている開発の例です。

 写真―省略

ニューヨーク クィーンズウェスト ウォーターフロント型
 バッテリーバークと反対側のマンハッタン東側の対岸に位置するクィーンズウェストです。ここはイーストリバーに面した場所です。ニューヨークのマンハッタン中心にグランドセントラルステーションという中央駅がありますが、そこから地下鉄で1駅、4分で到着できる場所です。国連ビルやエンパイヤーステイトビルを見ることができるウォーターフロントの一等地であります。昔はクレーンターミナルなどがある工場地区でしたが、時代と共に衰退してしまい、跡地利用で州政府、港湾局あるいは民間企業が共同開発をしています。昔のクレーンをそのまま利用してモニュメントとしております。開発面種は約30haです。全体で6,400戸の住宅が供給されています。日本の文部省では認可されないと思いますが、1階部分にグランドは別として保育園と小学校があります。セキュリティの関係上、24時間対応の受付などがあるので、雰囲気としてはホテル風の感じがします。デザインをしたのは日本のアメリカ大使館や福岡のシーホークホテルを設計したシーザー・ペリ氏です。様子は福岡のシーホークホテルにかなり似ています。第1号で建設されたものを見学させていただきました。42階建ての公的な住宅であり、眺めとしては一番よい場所です。モデルルームも拝見しましたが、ニューヨークの公的な都心居住で国連ビルなどが眺望できるすばらしい部屋でした。

 写真―省略

ニューヨークのホボケン ウォーターフロント型
 クィーンズウェストとハドソン川対岸にホボケン市という小さな市があります。マンハッタンの南側の工ンパイヤーステートビルなどが見える景観的にもすばらしい眺望ができるロケーションです。開発面種は水域部分を含めて約30haあります。オフィス、住宅、業務や商業と多機能に開発されています。このような面的な複合開発をしていく中で都心居住をしています。

2.超高層型
シカゴ ジョンハンコツク
 シカゴにあるジョンハンコックタワーです。1968年に完成され、344mの都心居住の高層アパートです。単純に半分上の上層部はアパートで、下層部はオフィスで、地上に近い階は商業、駐車場になっています。アパートの一番低い階でも170mの高さがあります。セキュリティを兼ねたフロントがあります。家賃は1,000〜3,000 ドルで、1ドル100円として単純に算出すると10〜30万円程度です。年齢層は高齢者、家族世帯や単身者と様々です。

 写真―省略

シカゴ マリーナシティと容種移転による超高層住宅
 同じくシカゴにありますマリーナシティは40階建て約180mの高さで、1960年に完成しました。下の約3分の1が駐車場になっていて、モーターボートの駐艇庫もあり、家賃は15万円程度のマンションです。
 ここは、有名な教会があるため、開発することができない。開発例とするとこの教会の上空部分をデベロッパーが買い取り、そして、教会を避けて上空に建設するという手段があります。

3.ウォーターフロント型
フィンランド ヘルシンキ ルオホラハティ地区
 ここはもともと港湾地区で、港区で考えると運河沿いの地区をイメージしていただいてよいかと思います。1万戸の住宅が出来上がり、現在は容積約200%の開発です。最終的には5万人の住宅を供給する予定です。ヘルシンキの中心街はこの周辺で、地下鉄でも5〜6分の場所です。
オランダ アムステルダム 運河地区
 これはオランダアムステルダムの運河です。オランダというと運河、川の街というイメージがあります。これは著名な方が手がけ世界的な学会で賞をいただいた例で、運河の上にまたいで住宅を建設しています。これは今の日本の法律では建設することができませんが、都心居住を考える際に道路や川の上に住宅を建設するというような大胆な発想をしていくこともひとつの手段かと思います。
 写真―省略

4.快適環境創造型
テネシー オプリランド
 世界に数少ないマンションのように見えるホテルなのです。大きなアトリウム中に川、レストラン、ホテルなどが入っていて、全てが空調でコントロールされている。客室は3,000室あり、安全とか快適性を追求するとこのように贅沢というようなレベルに達していくのかと考えてしまいます。

5.リニューアル型
ニューヨーク サウスブロンクス(スラム改善)
 アメリ力で最も有名なスラムであるニューヨークのサウスブロンクスです。スラムになるというところは中心隣接地区が多く、ここも中心部には大変近い地区です。黒人や不法移民が住みつくようになりスラム化が始まりました。以前は裕福な白人が居住していたところですから、建物自体は大変グレードが高く、デザイン的にも1900年代の有名な建築家が建築したものが並んでいます。住民の方と出会い、家の中を見学させていただきました。私の家より広く快適で、サウスブロンクスという世界で最も有名なスラム街でこんなにすばらしい家があるのかと感激しました。
 写真―省略

ペンシルバニア ピッツバーグ(駅オフィス⇒マンション)
 鉄のまちピッツバーグの駅です。古い駅の鉄道のオフィスビルをリニューアルして住宅にしている例です。建築様式的にすばらしい建築物だと思いますが、中に入ることはできませんでしたが、鉄道の駅が廃れてマンションになっています。オフィスを全部マンションに変えてしまった例です。

ニューオーリンズ 倉庫地区(倉庫⇒マンション)
 港湾地区・ウォーターフロント地区は倉庫街になっていて、倉庫を改造して都心居住をしている例です。ここでは家の中、インテリアを見せていただきました。

都心居住のライフスタイル
 都心居住のメリットは、国際化、欧米的あるいは女性の参加ということにとって、お付き合いにもこれからは女性がどんどん出席をしていくようになるのではないかと思います。従来、日本の社会は男同士の付き合いですが、欧米では必ず夫婦、家族同士で付き合いをします。そのような文化は日本にも入ってくるようになると考えています。しかし、今日の住宅事情では職場は東京都心で、居住は神奈川、埼玉や千葉など都心から1時間30分〜2時間かけて通勤していると家族同士の付き合いは不可能に近いのではないかと思われます。会話や家族を通して信頼されて、ビジネスが発展していくなかで都心居住が非常に大切な要素になってくるかと思います。

大胆な居住空間の創出、戦略
 現在、私は携わる機会が少ないですが、仮に私が都市開発を計画するならば、アメリカを模倣しようとする気持ちはないですが、ひとつの開発の中で仕事場、ホテル、生活の場があり、ショッピング等があるという複合開発を進めていくべきだと思います。超高層を建設する時は住宅や仕事場を縦に重ねたりしていくことも検討すべきと思います。
 デンバーの例ですが、実際に都心の中心街を無料バスが走っている。これらは、排気ガスの減少に努め、環境を良くするためにこのような大胆な発想がなされています。今度は20年前に建設されたドイツの例は、鉄道や高速道路の上に住宅が建っている。欧米では事例からも見られるように都心居住に対し大胆な発想のもとで開発されている。
 ニューヨークの5番街の例でショッピング、スポーツクラブ、オフィスに庭園があるといった住まいと色々な機能がある混合された開発というのは、今後求められていくのではないかと思います。
 従来の流れの中で、都市開発等住宅を検討するのではなく、全くドラスティックに考えていかないと都心に快適な環境を供給していくというのは難しいのではないかと思います。必ずしも国など行政に対しての資金の要求、様々な団体からの寄付という形だけに頼るのではなく、今後の投資という発想で民間企業にも協力をしてもらい、職員の方々からも知恵等を出し合い、知恵がなければ汗を出すという厳しい覚悟で都心居住を考えていかないと進むことは不可能ではないかと思います。


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